ここまで、Windows 10の強化された機能、新機能を見てきました。最終回の今回は、Windows 10とクラウドの関係、マイクロソフトの戦略について説明します。また、企業がWindows 10を導入する際に注意したいポイントについても触れました。ぜひ、Windows 10を検討する際の参考にしてください。

Windowsはじつは少数派

 パソコンの世界では圧倒的なシェアを誇っているWindowsですが、じつは、タブレットやスマートフォンなどのすべての端末を含めたOSのシェアでは少数派です。iOSやAndroidのスマートフォン、タブレットの普及でパソコンは売れなくなった今、パソコンだけを相手にビジネスしても”じり貧”になるのは明らかです。
 マイクロソフトが、パソコン、タブレット、スマートフォンのすべてで動作するOSとしてWindows 10を開発し、しかも、Windows 7/8.1のユーザーに対して、実質、無償で提供する理由は、ここにあります。まずは、パソコンだけでなく、タブレットやスマートフォンでシェアを奪還するのがねらいです。
 しかし、そうはいっても、膨大な投資をして開発した製品を無償で提供するだけだと、いかに巨大企業のマイクロソフトといえど、大赤字に陥ってしまいます。では、どうするか? そこで重要な役割を果たすのが「クラウド」です。

Windows 10はタダで配ってクラウドで儲けるのがマイクロソフトの新しいビジネスモデル

 すでにクラウドは、個人・企業で活用されています。たとえば、スマートフォンで写真を撮ったらクラウドに保存するのが普通ですし、FacebookやTwitterなどもクラウドで提供されています。Googleが提供するサービスも、ほとんどがクラウドサービスです。
 クラウドの特徴は、端末が違っても、同じデータ、サービスを利用できることです。スマートフォンで撮影した画像はタブレットやパソコンでも表示・編集できますし、WindowsやMac、iPhoneやAndroidでもFacebookやGoogleのサービスを使えます。
 Windows 10の特徴は、このクラウドとの融合が進んでいることです。たとえば、Windows 10では、クラウドストレージの「OneDrive」が標準で利用できます。WordやExcelで作ったファイルをOneDriveに保存すれば、他のパソコンやタブレット、スマートフォンでも表示・編集できます。
 クラウドにデータを保存すれば、パソコンやタブレットが故障しても、慌てる必要ありません。クラウドにデータが残っているので、別の端末を使って同じデータにアクセスできるからです。
 マイクロソフトは、このクラウドでビジネスをしようとしています。端的に言えば、クラウドで儲けようとしています。その主力サービスがOffice 365です。Windows 10は赤字覚悟でタダ同然で配布し、Windows 10を通じてOffice 365をはじめとする有料クラウドサービスを販売するのが、マイクロソフトの戦略です。

  • Windows 10は、クラウドストレージ「OneDrive」が標準で利用できます。Windows 10は、クラウドストレージ「OneDrive」が標準で利用できます。

  • Office 365は、マイクロソフトが主力に位置づける有料のクラウドサービスです。Office 365は、マイクロソフトが主力に位置づける有料のクラウドサービスです。

企業の活用ではWindows 10の更新の仕組みに注意

 このため、Windows 10からはWindowsの役割も変わります。実際に、Windows 10からは、無償で新しいバージョンにアップグレートできます。何もしなければ、どんどん機能が追加・改良されていくのです。Windows 10は、あくまでクラウドサービスを提供する窓口なので、無償であっても、つねに最新であった方が、マイクロソフトにとっても都合がいいからです。
 ただし、企業とって、これは少々問題です。Windowsをアップデートしたら、安定して動いていた業務アプリケーションが動かなくなったり不安定になったりすることは珍しくありません。せっかく安定稼働しているのに、勝手にWindowsがアップデートされて業務アプリケーションに支障が出たら困ります。
 そこで、マイクロソフトは、企業ユーザーに対しては、従来と同様の有料サポートを継続し、自動的にアップデートされない仕組みを提供する予定です(ただし、詳細はまだ明らかになっていません)。

  • Windows 10では、自動的にアップデートされて、つねに最新の状態が維持されることになります。画面はWindows 10のWindows Updateの設定画面です。Windows 10では、自動的にアップデートされて、つねに最新の状態が維持されることになります。画面はWindows 10のWindows Updateの設定画面です。

すべてがクラウドに移行するわけではない

 Windows 10以降、クラウドサービスが主役になるのは間違いありませんが、だからといって、すべてがクラウドに移行するわけではありません。クラウドを使えば、確かにハードディスクはなくても問題なさそうですし、今までのように、別のサーバにデータをバックアップする必要もなさそうです。
 しかし、私はハードディスクもバックアップもなくならないと思います。なぜなら、クラウドは100%安全ではないからです。たとえば、何か災害が発生し、インターネットが使えなくなったら、クラウドにアクセスできません。緊急で確認したいことがあるのに、すべてのデータがクラウドにあったら、何もできないのです。こんなとき、ローカルのハードディスクにデータがあれば対応できます。
 また、クラウドで障害が発生したら、最悪の場合、データが失われるリスクもあります。可能性は低いと思いますが、ゼロではありません。したがって、本当に重要なデータは、ローカルにもしっかりバックアップしておくことが大切だと思います。
 Windows 10の時代になれば、確実にクラウドサービスが主役になると思います。しかし、だからこそ、すべてをクラウドに依存するのではなく、ローカルの記憶装置をうまく組み合わせて安全性や利便性を高めることが、特に企業においては大切だと思います。