第1回では「インダストリー4.0」をめぐるドイツの動きを取り上げましたので、今回はアメリカの動きを紹介します。アメリカといえば、AppleやGoogle、Microsoftを生んだIT大国。ITを活用した製造業の変革という点でも、ドイツに負けず劣らず活発です。

産業用データ分析のプラットフォームで覇権をねらうGE

 ドイツの「インダストリー4.0」の動きに触発されて活発に動いているのがアメリカです。特にその中心となっているのが、ゼネラル・エレクトリック(GE)です。GEといえば、発明王トーマス・エジソンが1878年に設立した会社からはじまり、航空機エンジン、医療機器、産業用ソフトウェア、各種センサー、鉄道、発電、水処理、鉱山機械、石油・ガス、家庭用電化製品……等々、あらゆる産業分野でビジネスを展開する世界最大のコングロマリット(複合企業)です。

 そのGEが中心となって打ち出したコンセプトが「インダストリアル・インターネット」です。インダストリアル・インターネットでは、ドイツのように工場ではなく、機械を中心に考えます。機械にさまざまなセンサーを取り付け、データを収集し、クラウドに蓄積して、人工知能によって分析し、機械に最適な指示を出して制御する。これが基本的な考え方です。

 そして、その推進団体として「Industrial Internet Consortium」(インダストリアル・インターネット・コンソーシアム)が設立されました。設立したのはGE、インテル、シスコシステムズ、IBM、AT&Tの5社ですが、現在では米国だけでなく、ヨーロッパや日本などの100社を超える企業が、Industrial Internet Consortiumに参加しています。

 

 

航空機の燃料コストを削減したインダストリアル・インターネットの成功事例

「インダストリアル・インターネット」の具体的な事例としては、GEが行った航空機の燃料コスト削減の例が有名です。
 GEは、ある航空会社に「御社の航空機の燃料コストを削減しますので、削減できたコストのX%を我々に報酬としていただけませんか?」と持ちかけます。航空会社としては、本当に削減できたら、削減できたコストの一部をGEに支払えばよいのでリスクはありません。そこでGEと契約したら、本当に燃料コストの削減に成功したのです。

 GEがやったのは、航空機にさまざまなセンサーを取り付け、情報を収集して分析することでした。機体、運航、気候、整備等に関する膨大なデータを収集し、タイムリーに分析することで、航空機の運航順序調整や飛行計画の最適化、燃料効率の改善などを行って、コスト削減を実現したのです。

 インダストリアル・インターネットを使えば、同様のことが、航空機以外の分野でも実現できます。製造業、石油・ガスなどのエネルギー関連、医療、家電……等々の領域で同様の動きが本格化すれば、これまでの産業の形が変わるほどの大きい変革が起きると考えられています。

データ分析プラットフォーム「Predix」で産業界のアップルを目指すGE

 インダストリアル・インターネットの考え方で最も重要なポイントは、機械に取り付けたセンサーで情報を収集し、クラウドに蓄積して分析し、最適な指示を機械に出すという一連のサイクルです。

 しかし、特定の企業がそれを実現しようとしたら、センサーを取り付けるところからはじまって、クラウドサービスや分析用のソフトウェアを開発しなければならず、膨大なコスト・時間がかかるので、とても不可能です。そこで、GEが開発・提供するのが「Predix」(プレディクス)というプラットフォームです。

 Predixは、産業分野のOS(オペレーティング・システム)のような存在です。アップルはiPhone/iPad用のOSとしてiOSを開発しました。そして、さまざまな企業が、iOSで動くアプリを開発し、いまのスマートフォン文化の隆盛があります。GEは、それと同じことを、「Predix」を使って産業分野で実現しようとしていると言われています。

 最後に1つだけ付け加えると、日本でGEの戦略的パートナーとなり、「Predix」の外販を受け持つのがソフトバンクです。初期のiPhoneを独占的に販売してビジネスを成長させたソフトバンクが、今度は産業分野でも同じことをやろうとしているように見えるのは、偶然ではない気がします。

 

 

<参考リンク>

○ インダストリアル・インターネットとは

○ 産業分野のAndroid/iOSを目指す、米GEがIoT基盤の外部提供を発表

○ ソフトバンクテレコムとGE ソフトウェア、「インダストリアル・インターネット」を推進するM2Mで戦略的提携契約を締結