ドイツの「インダストリー4.0」、アメリカの「インダストリアル・インターネット」と見てきましたので、最終回は日本です。"モノ作り大国"を自認する日本にとっても、ITによる製造業の改革は大きいテーマのはず。その取り組みはどうなっているのでしょうか。また、インダストリー4.0をめぐる動きと中小企業の関係にも触れました。

GEの「インダストリアル・インターネット」のもとになったのは、ある日本企業の取り組み

 第2回で取り上げたアメリカのGEを中心とする「インダストリアル・インターネット」は、じつはある日本企業の取り組みがきっかけになったといわれています。その企業は、建設機械で有名な小松製作所(以下、コマツ)です。

 コマツは、自社の建設機械にGPSとセンサーを搭載し、ネットワークで接続する「KOMTRAX(コムトラックス)」という仕組みを構築しました。これにより、全世界で稼働している建設機械の状態をリアルタイムに把握し、盗難やトラブルが発生した際には、遠隔操作でエンジンを止めたりコントロールしたりすることが可能になりました。さらに、動作履歴のデータを省エネやメンテナンスにも活用しています。

 KOMTRAXの北米でのオプション販売が始まったのは2000年ですから、ドイツやアメリカよりずっと前から、インダストリー4.0的な取り組みをしていたことになります。さらに、コマツ以外の日本企業も、ITを活用した工場内の生産性向上の分野では世界をリードしてきました。

 いま、多くのメディアが「インダストリー4.0」や「インダストリアル・インターネット」で騒いでいますが、じつは日本は、この分野で世界を大きくリードしていたのです。

 

 

業界や企業の垣根を越えた日本の取り組みは大幅に遅れ

 しかし、ドイツ、アメリカと日本のあいだには、決定的な違いがありました。それは、日本の取り組みが企業内に閉じて、企業間、業界、さらには産業界全体を巻き込む動きにならなかったことです。個々の企業を見ると、コマツのように非常に先進的な企業もありましたが、そこからGEのように世界展開を視野に入れたプラットフォームを構築したり、規格を標準化したりする動きは起きなかったのです。

 これは、かつてのiモードに似ています。1999年にサービスを開始したiモードは、携帯電話でインターネットを利用できる画期的なサービスでしたが、あくまでNTTドコモのサービスという位置づけで、海外に広がることはありませんでした。その後、2007年にiPhoneが発売され、GoogleがAndroidを発表し、現在のスマートフォンの隆盛があるのは、ご存じのとおりです。アイデアやサービスは、AppleやGoogleよりも先行していたのですが……。

先行する標準規格やPredixを利用して日本の強みを発揮する

 私は、インダストリー4.0の専門家ではありませんので、ここではメディアでよく言われていることを、簡単にご紹介してまとめにしたいと思います。

 結論から書くと、インダストリー4.0やインダストリアル・インターネットをめぐる規格の標準化、Predixのようなプラットフォーム構築の領域で、日本はドイツ、アメリカに大きく遅れをとっているといわれています。第1回でトヨタがドイツで作られた標準規格「EtherCAT」を採用したニュースを紹介しましたが、それなどは、ある意味、日本の現状を象徴する出来事なのかもしれません。

 ただし、逆に規格やプラットフォームが決まったら、それを利用し、改善していくのが日本企業は得意だといわれています。もちろん、今後も国際標準化の活動に積極的に参画することは重要ですが、逆に決まった標準規格は積極的に採用し、そのうえで新しい価値を生み出していく努力も必要だろうと思います。

 実際に、今後は、こうした標準規格を採用した製品やサービスが登場してくると思われます。たとえば、アマダでも、さまざまな関連商品がリリースされる予定です。

 こうした動きは、中小企業にも影響を及ぼすと思います。たとえば、トヨタがEtherCATを採用したら、同社に材料や部品を納品する関連企業にも、当然、EtherCATの採用が求められるはずです。

 したがって、中小企業としては、今後、業界の動向、取引先の大手企業の動向に注目しつつ、何らかの動きがあったら、すぐに対応できる準備、心構えだけはしておく必要があるのではないでしょうか。